中村恵里加『ダブルブリッド』1-10巻、『ダブルブリッド Drop Blood』電撃文庫

ダブルブリッド (電撃文庫)

ダブルブリッド〈10〉 (電撃文庫)

ダブルブリッド―Drop Blood (電撃文庫)

ダブルブリッド』本編10冊と外伝短編集1冊の計11冊。その昔、途中まで読んだは良いのですが、完結するまでもなく、そのまま放置状態に陥っていました。が、今年になって突然の完結と短編集の発表という事態になりました。正直、最初ネットニュースで見たときは、どうせ流れるだろうと思っていたわけです。

アヤカシと呼ばれる妖怪のような存在と人間との混血である主人公・片倉優樹と人間である山崎太一朗との物語。最初は、単に優樹と山崎との種族を越えた繋がりが描かれていくのかと思っていました。実際、山崎が警察の研修として、優樹のいる第六課へと派遣されてからの数ヶ月を描いていた数巻においては、山崎は優樹に歩み寄るといったことでその線は崩されてはいません。しかし、京都編前後から六課の他のメンバーが登場し、単なる渋谷周辺という狭いコミュニティでは収まりきらなくなっていたわけですが、何より山崎自身が「鬼斬り」(童子斬り)におかされ、アヤカシを衝動的に襲うようになってから、ストーリー的には非常に面白いと言える展開をしていったわけです。完全無欠のハッピーエンドではないわけですが、それでも10巻読後、そして短編集に残る寂寥感の拭えなさがまた秀逸。

それにしても片倉優樹は、ストーリーの途中から右目に父親(酒呑童子)の右目を移植される(→自分で引きちぎる?)といった点からモチーフは鬼太郎なのだろうかと漠然と考えていました。単純に片目ということで。基本的に冷静、というか何事においても冷めているにも関わらず、一応は警察官なのでそれなりに「正義」的な活動はしているわけですし。しかし、混血という存在と彼女の周囲に集まってくるアヤカシたちというコミュニティを考えていくと、途中から比較など、どうでも良くなっていたことも事実です。

結局のところ、混血という存在を出してきてもなお、アヤカシと人間は分かり合えない。という線引きを崩しません。もちろんそうではない示唆を沢山含みながらも、安易さで境界線を消していくという行為を行わない。父親という絶対的なアヤカシと母親という優樹の心残りであった存在の両方が彼女の心の中に平行線をたどるように、しかし、彼女のなかではきちんとした繋がりをもってあるわけですが、それが他者との関係性においては違った様相で表出してきます。優樹にとって気軽に対応できるアヤカシと緊張さをもって対応する人間。そういう点では、片倉優樹という存在を見事に描ききったのでしょう。

まあ、そんなわけで『ソウルアンダーテイカー』はどうなりますか?