仁木英之『僕僕先生』新潮社、2006年。

僕僕先生

ボクにとって名前など何の意味もない。目の前にいるキミがボクのことを認識するのに何か特別な名前が必要か?

僕僕という美少女仙人とやる気のないニート弟子の物語。唐の時代を舞台とし、則天武后が亡くなってそう時間の経っていない時期設定のようです。しかし、中国という舞台は何でも飲み込んでいくことができるというか、結局のところ中国史などは門外漢なので、どこまでの描写が史実に沿っており、どこからがファンタジーなのかが読者としてはわかりませんので、いい具合で曖昧になっていると思います。主人公のニート(名前は王弁)と西アジア地域から中国へと流れてきた者との会話などは、非常に興味深い。彼自身の辺境外に対する感想や感慨は極めて現代的なのだろうけど、それらの存在を作中に投入できるというのは創作としては意欲的なのかもしれませんし、しかしよく考えると仙人という人間界の外にいるものを取り上げているので、有る意味当然かもしれませんけれども。

何はともあれ仙人界と人間界との間の関係性が希薄になりつつある時代を取り上げているわけですが、実際、概念上、仙人というものの系譜はどのようになっているのでしょうか。何というか、唐代以降におけるナラティブな世界ではどうなっているのか、とか、そういうのが少し気になります。

ちなみに今月末に続刊が刊行されるとのこと。楽しみです。