灰羽連盟

灰羽連盟 TV-BOX

以下、ネタバレします。

安倍吉俊の同人誌を原作にしたアニメ作品。村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の影響を強く受けた作品でもあります。村上作品はかなり昔に読んだのであまり覚えていないのですが、壁に囲まれて、一角獣が住み、心を失った住人たちの街であった「世界の終り」と比較すると、壁に囲まれ、時計塔を中心とした街という場所は似通っています。しかし、『灰羽連盟』で描かれるグリの街の住人は決して心を失っているわけではなく、光輪を頭に載せ、羽の生えた灰羽たちとの共存が行われている点が特徴でしょうか。オールドホームと呼ばれる家屋で暮らす灰羽たちを通して、壁に囲まれた(そして守られた)歪な(・・・と言い切るのもどうか)世界を描いた作品になります。

壁の存在というのは本編でも重要な要素で、ストーリー初期では灰羽たちを外界から守るという意味で、ある種のパラダイス的な要素を創出するものとして主人公ラッカには捉えられていました。しかし、彼女の心の悩みにより、罪憑きの灰羽となって以降は壁の存在は逆説的に彼女自身を苦しめるものとして捉えられています。特にこの問題としてはラッカ自身の他者とのコミュニケーションの問題としてみたほうが良いのかもしれません。

クウが巣立ったことによって彼女自身の心が閉ざされ、同じ場所をぐるぐる巡っているような日々が続く。結果としてそれが罪憑きになってしまう一因だったのでしょうが、それとともにラッカにとって壁の存在が「死」の象徴へと変化していきます。しかし、結局、彼女を罪憑きから救うのが失くした記憶では出会っていたのかもしれない存在の化身である烏でした。つまり他者との連関の中に再び戻っていくことによって、罪憑きから解き放たれたわけです。

この点と同じような状況が以前より罪憑きであったレキにも浮上していきます。そのレキの心の闇に無理やり介入していったのが、ラッカでした。レキ自身の声を掴み取った彼女は見事にレキを罪憑きから救い出し、送り出すことに成功します。この一連の出来事に関しては、本当に感情移入しやすいものでした。ストーリーとしては上記のようにラッカの罪憑き、レキの罪憑きと同様のものを繰り返しているにも関わらず、より広がりをもってみられるのは、レキという女性の問題でしょうか。いつもタバコをくゆらせ、時に斜に構えながらも、いつも仲間たちをそしてオールドホームを暖かく見守っている彼女自身のスタイルが、演技であるのかないのか。罪憑きであるという明確な事象が彼女に常に突きつけられていることを加味すると、その複雑な心情への理解が深まるのかもしれません。しかし、話師が繰り返し、「レキは私の話を拒否する」と主張していたように、明確な他者を拒否し、オールドホームという中でもがいていたのはレキ自身だったということでしょうか。

しかし、まあ、この作品は非常に複雑で、実は「死」が認識されているも決して明確に描かれることはありません。クウが旅立ったあと、灰羽たちは「死」ともつかない「巣立ち」に頭を下げます(あれ?手を合わせるだったかな?)。葬式ともいえない行動の原理は何か。「死」ではなく、「生」への連環を暗示させる「巣立ち」なのでしょうか?そして、「死」は拒否されるも、「生」は何度も描かれます。ラッカの生誕だけではなく、エンディングにても双子の灰羽の誕生。そしてグリの街の人間も(司書の人)。どうやら明確に存在するらしい何かしらの連環の中で、彼女たちが生きていることがうかがえます。この作品が魅力的だと感ずるのは、灰羽という特殊な存在を取り扱いながらも、内実としては普遍性あるテーマを取り上げ、普遍性ある様相として描き出したことにあるのかもしれません。