北森鴻『写楽・考』新潮文庫、2008年

写楽・考 (新潮文庫 き 24-3 蓮丈那智フィールドファイル 3)

「けれど学界の古老たちは」
「年寄りの戯言など放っておくがいいさ。どうせ彼らの命数など先が見えている」
本書183ページ

蓮丈那智センセイに敬礼!

というのは冗談ですが、いつも楽しみにしているシリーズの最新文庫。異端の民俗学者である蓮丈那智とその助手三国さんがフィールドワーク先でなぜか事件に巻き込まれる・・・というお話です。もちろん、民俗学のフィールドワークをしているわけなので、当然、事件もそれにまつわるものになっていくわけですが、しかし、いつも思うに彼女の学説は論理展開も推論も強引だし、根拠もないというのに、これほど面白いのは何故だろうか。一つには学問としては無理であっても事件は解決するということ。要は学問と事件が密接に結び付いているが故の結末でしょう。そしてもう一つの点としては那智先生のカリスマ性。助手の三國を通してみると、彼女への畏怖がよくわかります。

指導教授に扱き使われるミクニにも同情はしますが、この巻あたりから助手が1名増え、さらには学務係の事務さんも話に絡んでくるようになりました。骨董屋シリーズの方もゲスト出演しているし、そういう点では、読者サービスに長けるだけの素質を備えるようになったシリーズと言うことができるでしょう。