橋本紡『空色ヒッチハイカー』新潮社

空色ヒッチハイカー

本当に、たまに橋本紡は名作を書き上げるから、困ったものだ。もちろん、小粒の作品であるということはどれを取っても変わりません。何か大きな主張をしたいから、とか、社会性のあることを描写しているとかそういうわけでもありません。単に東大生で国1に合格して、将来官僚まっしぐらの優秀な兄が突然の疾走をし、その兄の背中を追いかけ続けてきた弟が東京から九州まで車で行くという、ただそれだけの話。18歳、無免許で、途中、ヒッチハイクする人を拾い続ける旅は、どこか面白く、悩み続ける主人公とそれを見守り続ける旅の相棒も良いコンビです。でも、本当にそれだけの話で青春がどうだとかいう青臭さを全て取っ払って、話の面白さを構築しているのはさすがと言うべきか。

旅が終わっても話が終わらないというのは大きな示唆で、でも、そんなことは当たり前で、全てが分かっていることなのに、この本を読んだ後に少し成長したかと思える自分自身が情けない。どこにも行かないかわりに、本を読んでどっか行った気になるというのもヒキコモリの性分です。