古橋秀之『冬の巨人』徳間デュアル文庫

冬の巨人

物言わず歩き続ける巨人の背中に住む人間たちの話。どこまでも続く冬景色。得られる熱エネルギーは巨人の体温。産業革命後レヴェルの機械文明。内市民と外市民。空を飛ぶ少女。出会う少年。ってどこのゴローですか、いや、ジブリですかといった内容のオンパレードです。正直なところ、圧倒的にボリュームが足りません。結局のところ、少女や巨人は何だったのか。巨人は何を目指して歩いているのか。そういった疑問を全て捨象した上で、少年の視点から話が描かれていきます。ただ、少年の成長の物語とするのも難しい。確かに教授の助手となって探究心を育てていくといった面は見られますが、最後は駆け足になってしまったが故に、物足りなさが残ります。ラストでカタルシスが解消されたが故に、主人公の内面描写の必要性を感じてしまいます。

しかし、それでも古橋作品。ラノベ作品としては絶妙のバランス感覚で、エンターテイメントを追求しつつも、物語を壊すことなく、読者としては安心して読めました。でも、それだけ。