梶尾真治『精霊探偵』新潮社、2005年

精霊探偵

「あなたのオーラが黄色なんですよ。これは嘘つきの兆候なんです。ほら、どんどん黄色が明るくなっていく。そうやって否定に否定を重ねると嘘がばれていきます」という内容や、「私の精霊がこのビルに住まう精霊と交信した結果、あなたは事件当日の午後3時半過ぎにこのビルの6階に居たということが分かっています。さあて、なぜあなたは警察には嘘の証言をしたのでしょうか」といった内容ではないかと本を手に取ったときは思ったのですが、さすがカジシンでした。

以下、ネタバレがあったりなかったり。

読み始めは、事故によって背後霊と会話が出来るようになってしまった主人公が、厭世的に物語るところでした。なかなか良い具合に後ろ向きで、楽しく読み進めていましたが、事件の様相が次々と明かされるに従って、いや、明かされるというよりは物語が進むに従って(としたほうが良いでしょうか)、実はミステリではなくSFなのだ、ということが分かってきました。この展開すら予想していなかったということは、僕の眼が曇っていることを示唆します。要所要所でミステリという枠組みを意識しながらか、丹念に物語を繋げていきながら、最後には突拍子もない次元にまで話を押し上げていく、という手法はさすがというべきでしょうか。何だか分からないままに話は終わりましたが、異なるものに日常をこれほどまでに侵食されながらも、恩田陸小野不由美ほどの恐怖感に纏わり憑かれなかったのは、やはりカジシンの魅力でしょうか。

何はともあれ、黒猫が良いです。猫はいい。