望月淳『Pandora Hearts』1巻、スクウェア・エニックス

Pandora Hearts 1 (1)

時計、黒ウサギ、アリス。単語だけを並べても分かるとおり、本作品は『不思議の国のアリス』をモチーフとしたファンタジー作品である。そんなわけない。

確かに作品構成のほんの僅かなパズルのピースになっているのかもしれませんが、少なくともこの1巻においてはそれだけであって、この作者の作品としての昇華が行われていると思います。アリスの場合は異世界への扉を無意識かもしれませんが、自ら踏み込んでいったことに対して、この作品ではそのファンタジー性を他者の働きかけ・・・さらに言えば、主人公自身の血筋の問題に落とし込んでいます。ということは単なる伏線としてでしか分からず、これ以上は何を書きましょうか。

アヴィスという異世界へ無理やり押し込められる話かと思いきや、すぐさま主人公たちにとっての「世界」に取って帰しているのですが、貴族・奉公人といった階級社会が存在していたり、でも主人公はなぜかその垣根を容易く越ええるだけの精神性を有していたりと、「ああ、ファンタジーだ」と思ってしまうことが散りばめられています。それもこれもどうなるかは次巻以降のこと。出会いと変容と前進が描かれている以上、掴みはOKです。