野村美月『“文学少女”と恋する挿話集 1』、『“文学少女”見習いの、初戀。』ファミ通文庫

“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫)

“文学少女”見習いの、初戀。 (ファミ通文庫)

いやあ、本当に遠子先輩は素晴らしい。

このシリーズを読み始めた当初はあまりにも「文学少女」然とした遠子先輩には思い入れが出来ませんでした。それは作中で描写されているように、いつの時代の女学生ですか、という様相で常に読者の前に登場してくるのは、完成された美少女像を見事に踏襲している感じで隙のなさを逆説的に感じていたのですが・・・。いや、しかし、完結した本編を読み終えた今となっては、全てに前向きで、元気で、それでいていつも心葉くんを思う彼女の様子に隠された様々な思いが伝わり、「いや、ほんとにごめんなさい」という気分になります。琴吹さんもかわいいのですが。

「そう、『蟹工船』は、まるで魚のあらや、ぶつ切りのごぼうやこんにゃくや野菜を、大きなお鍋で煮た粕汁のようね!どろどろした白い汁に浮かぶ鮭や鯛の頭に引いてしまいそうになるけれど、思いきって口へ入れてしまえば、荒々しい旨みが舌を震わせ、酒粕の原始的な香りに酔わされ、おなかも心も熱くなるの!」
“文学少女”と恋する挿話集 1』59ページ

それにしても『蟹工船』と来たときには遠子先輩はどうするのだろうと思いましたが、さすが・・・。というわけで、まだまだ外伝が続くようです。彼らがきちんと歩みを進めることを知った今、これらの短編集や外伝でも着実に描かれているのは安心です。何より元気な後輩も文芸部に入りましたし。