古味直志「PERSONANT」(『ジャンプスクエア』2008年12月号所収)、「APPLE」(『週間少年ジャンプ』4・5号2009年、所収)を読んで。

ようやく読みました。『ダブルアーツ』でお馴染みの古味直志の読み切り2本です。

まずは発表時系列的に「ペルソナント」。こちらの作品は仮面をつけることで全てを管理された世界を描いた近未来SF作品。主人公はそのような社会の中で、唯一仮面をつけずに生活をし、反逆罪で追われる青年。「アップル」のほうは地球上の生物に変身でき、超能力をも得ている青年と彼を研究する少年の物語。

1:世界との距離感
基本的に2作品に共通しているのは、主人公の動向一つで世界や社会機構を変革することが可能であるということではないでしょうか。「ペルソナント」に関しては仮面をつけることで、逆に政府からの支配を受けるという状況から離脱した主人公なわけです。ただしここで問題なのは、彼らが認識する世界や社会というのがどの程度の概念の広さであるのか、そこを何一つ明確にすることはなく話は進んでいきます。

ここに見られるようにヒロイン役の新聞記者(主人公を取材で付けまわす)との会話の中で、仮面をつけることで平和になったという言葉があるわけですが、その具体性までは提示されません。しかし、それでも主人公は政府から追い回され、最後には彼の持つアイテムを求めて出てきたボス的な存在が、

と世界の管理が目的であることを名言しています。もちろん、これが何をどう指し示すのかは明記されません。これは「アップル」も同様で、地球が危機的状況に陥ったときに意思ある地球によって生み出された生命体がアップルという存在であり、それが主人公になるわけです。しかし、こちらも地球という漠然とした壮大なスケールを述べているだけで、なぜ政府が彼を捕獲しようとしているのか少し分かりにくい。「アップルを手にした者が世界の支配者」と政府(というか軍)の高官が述べている言葉などから一定の志向性を感じるのみになります。

しかし、このようなことは連載作品であった『ダブルアーツ』でも同様であったわけで、キリとエルーが旅していた土地や世界の概念・広さといったものは実は全てすっ飛ばされて、彼らの身体感覚レヴェルでの言葉で世界観を構築していることが分かります。

2:身体ということ。
ダブルアーツ』はキリとエルーが手を繋ぎ続けなければならないという絶対的前提の中でストーリーは続いていったわけですが、この読み切り2作品でも主人公らの身体に関する描写は非常に重要な側面を持っているといえます。


「ペルソナント」では仮面を装着することによって、作中で描かれているように容姿が隠されるだけでなく、彼らの全身が外部との直接的な接触を拒否するといった状況になります。その直接的接触を排除することが世界や社会との支配に直結しているという逆説的な展開なわけですが、まあ、それはそれ。「アップル」では、それほど強調されはしませんが、主人公が本気を出したときは、彼の容姿が植物的なものに変化したことぐらいでしょうか。それよりも気になるのは、彼らの生活空間や描かれる場所が決して都市的な空間ではないということ。

「アップル」ではこのような場所で彼が生活しているわけですし、「ペルソナント」では主人公の逃げ込んだ先が崩壊した都市空間であったりしています。彼らの生活空間が先進的な空間からの逃避として描かれていることもまた、SF作品としては注目する必要があるかもしれません。

3:というわけで
飽きてきたので終わりにしようと考えていますが、結局のところ古味作品では、主人公らの身体的な感覚もしくは生活空間で描かれた事象が、社会・国家・世界といった広範囲の概念に一挙に飛びつくのが特徴でしょう。その志向性は実は読み切り「island」という閉鎖空間では見事に説得力をもって描かれていたわけですが、それ以後では少し苦慮していると言わざるを得ません。それが故に、主人公らの生活空間が都市部から切り離された、孤独ともいえる場所になっているのでしょうが。さて、次回作はどう来るのでしょうか。というより連載を待っています。

ダブルアーツ 1 (1) (ジャンプコミックス)

ダブルアーツ 2 (2) (ジャンプコミックス)

ダブルアーツ 3 (3) (ジャンプコミックス)
古味 直志
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