芦奈野ひとし『カブのイサキ』1巻、講談社

カブのイサキ 1 (1) (アフタヌーンKC)

前作『ヨコハマ買い出し紀行』では、基本的に主人公のアルファさんの緩やかな生活を描いていく作品でした。特に、アルファさんの喫茶店が台風で壊れてしまい、再建費用を稼ぐために各地を渡り歩くようになってからは(といっても、関東地方〜東海地方ぐらいか)、それまで固定化されていた彼女の視点が旅をすることによって広がっていき、非常に楽しめた記憶があります。ただし、「夕凪の時代」「てろてろ」といった言葉がこの作品を冠していたように、静か動かといえば、静という作品でした。それは一つには主人公のアルファさんがその土地に住みながらも、人間たちの時間の流れからは逸脱した存在(ロボット)であったということが作品に対して大きく影響を与えたといえます。つまり、タカヒロやマッキが主人公ならば、あの「夕凪の時代」という日本列島の多くが水没し、文明が自然へと飲み込まれていった世界もまた、違った世界へと描かれたに違いありません。

それを見事に示してくれたのが、この新作『カブのイサキ』です。地面が10倍に広がってしまったという世界では、移動手段として飛行機が欠かせない状況になっています。もちろん、前作と同じように世界観としては、文明が自然を飲み込んでいると言う点も同じで、その凄まじさという点は今回では飛行中に見る東京タワーなどでしょうか。前作では、夜の山中に浮かび上がる使われなくなった街灯などでしたから、そういう点でも同じ事象でありながら、こうも違ったスピード感を伴って現出してくるわけです。

それにしても前作から思っていましたが、飲み物が印象的。ただのジンジャエールに見えるのに!