古味直志『ダブルアーツ』について書いてみる。その2。

昨日のエントリーの続きです。結局、ぐだぐだでしかないわけですが、前回エントリーの「2:温もりということ」の途中から話し始めています。



特に第15話に出てくるシスター・ハイネの存在は印象的であり、それまで読者が主人公として、もしくは物語の話し手として捉えることで感情移入を一手に引き受けてきた感のあるエルーですが、逆に言えば、シスターの孤独感や危機感などが普遍化されたという点ではシスター協会の存在や隠れ宿といった集団性にのみ特化されていたわけです。しかし、ここでハイネという個人性が登場することによって、シスターの存在がより立体化したといえます。

最後の治療を終えて、トロイの発作が起きた後のハイネの感情は至極当然であるわけですが、この当然であるということを描くことの意味もまた重要なのかもしれません。そして躊躇なくエルーが彼女を救ったという点も。


3:明るい登場人物たち
トロイという解明されていない病気がありながらも、この作品に通底しているのは明るさだと思います。まずはキリの幼馴染であり、作品としては戦闘要員でもあるスイの存在。

ここでも分かるように、読者というこの世界から物理的に離れた場所にいる(要はトロイの脅威などを身体的に感じていない)身からするとエルーは大げさとも取れる拒絶の態度を取っているわけですが、それをさらりとスイはすり抜けています。この次のコマで「この人苦手かも」というエルーの心の声が逆説的にスイがエルーのパーソナルスペースを乱したことの証左になるといえます。また、これだけでなく、話は前後しますが、旅立つ前にキリの家で、キリの両親がエルーの手をミトン越しに触ったときのリアクションもまた同様のことといえるでしょう。

さらには、彼らの行動は常に死と隣り合わせでありながらも、それを感じさせないものが非常に多く描写されます。旅の同行者であり、貴重すぎるほどの戦闘要員であるファランが動物に嫌われる性質であったり、スイがチェリー好きで、旅の荷物はチェリー缶のみであったり等々、細かい設定を多用します。あとはキリが手先が器用であったりとか。これらを常に被せてくることによって、マンガ作品としてのリアリティを保つことに成功しているといえます。

そのほか、特徴的なのは、シリアスなコマとそうでないコマが例え非常にシリアスな場面展開であっても同居するという点でしょうか。これはもはや、近年の作品では当然のことかもしれません。自分自身に発作が起こると分かっていながら治療へ行ったハイネのもとに向かうシーンですが、このようにデフォルメを重ねることはこの作品では多々見られます。挙げれば切りがないのかもしれませんが、実はシリアスとそうでない部分、様々な細かい設定を組み合わせることによって、病気・感染という問題そしてそこから引き起こる阻害という問題のマイナスイメージを上手くカヴァーしていると思います。

4:結局打ち切られたわけですが。
でも、まあ、結局、ばっさりと打ち切られたわけです。なんでや!という言葉がネットを見る限り飛び交っていましたが、結局、何でなのでしょうか。無駄に編集部の体制を批判する言説が多いのには閉口しましたが、しかし、それはお門違いというものかもしれませんが。うーむ。個人的には既述のような作品の通底をなす明るさや、少年少女の成長の物語といった一面を強く押し出しすぎたことによって、トロイという病気やその問題に従事し続けなければならないシスターたちの問題意識が強く伝わってこなかったと思います。もちろん、この作品に流れる陽気さというのは個人的には大好きであることまた事実ではあるわけです。そこのバランスなのかもしれません。

で打ち切られてしまって、大量の謎が残りました。ガゼルは何?トロイって?キリの大事な日は?エルーの幼馴染は?とかとか!しかし、読者として一番気になっていたトロイは撲滅できたのか(エルーは生き延びたのか?)とキリとエルーの関係という2点についてはある程度の答えを出して終わってくれましたので、一先ず満足としましょう。

10月に『ダブルアーツ』2巻、11月にはジャンプSQに読みきりが載るようです。楽しみにしています。
余力があれば、続きを書くかもしれません。

続きました


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