木村紺『神戸在住』10巻、講談社

神戸在住 10 (10) (アフタヌーンKC)

美しく彩られた冬の日向、冴えわたる空気に包まれ、私は最初の一歩を踏みしめた。今はまだつらい記憶も、やがては優しい思い出となり、人生の糧となる日を信じて。
本書71ページ

まさしく名作と呼べる作品が完結しました。物語の終わりというのは物悲しいもので、発売と同時に購入したというのに、昨晩まで積んでいました。

主人公辰木桂を通じて見る神戸の姿。なまじ彼女が感受性ある人物であるが故に、様々な事象が彩をもって、読者の中に飛び込んできます。1巻から通じて考えると、彼女の生活環境も、リズムも、友人たちも、様々な変化を伴っていました。そして何より、巡り来る季節と食べ物、そして土地!主人公というフィルターを通して、ある種、増幅され、ある意味ではコード化されているかもしれない様々な事象が、読者を見事に誘導していきます。特に桂が漫画的リアリズムの中では、かなりリアリティをもって、「こういう大学生はいるかもしれない」と頷かせてしまうような存在であったがゆえに、そういう点ではブレない存在であるがゆえに、説得力をもって読者が物語を楽しめたのだと思います。

非常にいい作品でした。読み終わったあと、自分自身に何か残ったような気にさせるという点では何か悔しいな(もちろん良い意味で)。ちなみに同じ作者の『巨娘』は別の意味で凄いことになっています。ソボティ・・・。