北山猛邦『「クロック城」殺人事件』講談社文庫

「クロック城」殺人事件 (講談社文庫 き 53-1)

「ミキ、これがあなたの見るべき真実の形態だよ」
奈美はからかうように笑った。
本書405ページ。

というわけで、読みました。世界の滅亡が既に決定し、厭世的な雰囲気が漂い、社会制度等の崩壊と自律的活動が見られる、そんな1999年が舞台。そこでは警察がいない代わりに武装した組織がいるし、映画館などは空虚ですが、探偵はちゃんと仕事しています。そんな舞台設定を読んだ時点でSF的な要素を踏まえた西澤保彦のような作品なのかと思っていましたが、ミステリ自体は非常に古典的で、実直でした。

一番気になったのが、ワトソン役(というか半分主人公、と捉えることをも超えている)の奈美の存在です。「全体を見抜く目」は僕も欲しいものですが、彼女の存在性自体が、周縁というよりはマージナルであり、最早、脱構築的なところに行こうとしている・・・のかどうか分かりませんが、本当に興味深い。結局、他の登場人物誰もが彼女と主人公の存在に違和感を覚えながらも、決定的に踏み込むことができません。それは読者も同じく。そのような点では、この作品が連作であって、続きが出て欲しいものですが・・・どうなのでしょう。良くは知りません。