有川浩『図書館危機』メディアワークス、2007年

図書館危機

図書館シリーズの3巻目。最近、有川浩がかなりお気に入りです。

メディア良化法を拠り所にするメディア良化委員会とそれらからの防衛を主たる目的とする図書隊とのやり取りを描いている作品ですが、基本的には言論に対する強権的な様相を政治的に描くということを主軸にはしていません。もちろん、現場に漂うきな臭い雰囲気や銃弾が飛び交う戦闘場面などが直截的に飛び込んでくることは非常に多い。でも、それ以上にこの作品の機軸となり、且つエンターテイメントとしての立ち位置を失わせていないのは、主人公とそれを取り巻く人間関係でしょう。

そういう意味では出発地点がライトノベルであったという作者が、キャラを成立させ、キャラクターを見事に描き切っているという点は尤もなことかもしれません。いや、どうでしょう。単なる優等生キャラであって、特に何の感慨も持たなかった手塚でさえ、この3巻ではもう読者としても、なくてはならない存在と化しています。民間人を巻き込まないという非常に特殊な条件下に置かれた上で成立し続けている戦闘という壮大なファンタジー(そう今の日本ではファンタジー)の中で、この作品をどこかへ飛んでいくわけではなく、読者にとってのリアリティへと繋ぎとめているのが、職場での人間関係や恋愛模様なのかもしれません。

とりあえず稲嶺司令に敬礼。