芦原すなお 『わが身世にふる、じじわかし』 創元推理文庫

わが身世にふる、じじわかし

いや、全く。面白い。安楽椅子探偵としての作品なのでしょうが、主人公の作家(半分、ヒキコモリ)とその奥さん(名探偵の位置づけ)の家に毎回、部署がかわる刑事(友人)が事件を相談しに来るという一連の流れは既に固定化されました。でも、形骸化しないところが秀逸なところでしょうか。

基本的に、刑事という存在によって、奥さんが安楽椅子探偵足り得る不自然さはないわけですし、主人公によって、何だかんだで現場に足を運んだり、関係者に会ったりすることも出来ているわけで、安楽椅子探偵作品としてのバランスを保っていると思います。もちろん、読んでいて、半分、勘で進めていないか?というところもあるような気がしますが、そんなものも簡単に吹き飛ばすのは、一つには事件を嗅ぎわける勘の鋭い刑事(そうは見えないけど)と推理・推論に秀でた奥さん(マープルみたいなもんか)、実際に足を運ぶ主人公という3者の絶妙な関係がマッチしているということが指摘できます。つまりは3人集まれば、一人の名探偵として数え上げることができるかもしれません。

そしてもう一つは主人公と刑事との掛け合い。途中からはひたすら会話文の羅列が続いたとしても、その情景すら頭に浮かんできます。最初、手に取ったときは、薄い・・・本が薄い・・・と思ったものですが、その薄さはこの会話文によるものでしょうから、別に問題ありません。

それにしても、いいなあ。主人公のだらだら感も大好きです。ある種の理想ではないだろうか。他の芦原作品を読んでみようか(ご他聞にもれず、デンデケデケはすごい昔に読んだ)。