定金伸治 『ブラックランド・ファンタジア』 集英社

ブラックランド・ファンタジア

 昨年、大作『ジハード』を読了した定金伸治の別の作品を読んでみましたが・・・少々、期待値が高すぎたでしょうか。『ジハード』の時には少しだけ感じていた「軽さ」が、こちらではある程度前面に出てきてしまった感じがします。

 ライトノベル=軽いということではなく、やはりキャラクターを中心的に描き出そうとする手法を取るが故に、出てきてしまう「軽さ」ではないでしょうか。『ジハード』のときはそれを補いうる分量の作品となりましたが、これは様々なものを削ぎ落とした中編的な作品なので粗もまた目に見えてしまう感じです。特になぜ安易に主人公の成長物語に落ち着いてしまうのか。なぜヒロインは(後天的にであろうが)動けない状況なのだろうか。さらには、なぜそのヒロインを主人公が抱える必要性(もしくはそれを描く必要性)が生じるのか。読み始めた瞬間に湧き上がってくる疑問・・・というより3つ目の疑問など嫌悪感を伴っている部分が若干あるやもしれません。

 『ジハード』の時は、極めて現代的な感覚でイスラム世界を描ききりましたが、今回はイギリス、ヴィクトリア朝時代のお話。すぐに思い浮かぶパイプの人も出てはきますが、基本的にそれ以外の部分では時代性を感じさせる描写はありません。出てくる貴族は階級性になぜか捉われていないわけで、それはやはり現代的な感覚に基づいているのでしょうけど。うーむ。森薫『エマ』をくぐり抜けていると、どうしても物足りなさを感じてしまいますね・・・。

 というあら探しが目立ちました。次に読む作品に期待です。