柳沼行 『ふたつのスピカ』 10巻 メディアファクトリー

ふたつのスピカ 10 (10)

 実はここ数巻をどうもテンションが下降気味でしたが、それは読み手側(というより僕)の問題であって、作品のせいではなかった!とこの巻を読むと痛感いたします。いや、しかし、感触としてはここ数巻はやはりそれほど引き込まれるものではなかったのではないでしょうか。SFとかロケットとか宇宙とか、そんな夢溢れる話に目が行きがちですが、そこで描かれているのは普通の高校生が、ほんの少しの「非日常」と読者が感じてしまうものを「夢」として追いかける姿です。まずは宇宙学校に入学し、新しい環境の中で、新しい友人たちと新しいことをやっていく。そのひと時が丹念に描かれるがゆえに、一つの停滞と受け取ってしまっても致し方ないことだったのかもしれません。しかし、彼らもついに高校3年生になりました。否応にも「夢」から、作品内の言葉を借りれば「妥協」へと変化をせざるを得ない。言い換えれば「妥協」を認識することができるようになる年齢になってしまったこと。そして、友人たちという小さな共同体を強く認識する年齢でもあるということ。

 「もうひとつのスピカ」のほうが面白くないか?と思っていた時期もありましたが、それは刹那的な出来事を、数ページに凝縮することによって静かにしかし強く読者に訴えかけてきたからでしょう。今回の話に出てくるバイトのお姉さん美人過ぎだよ!それはともかく、それとは対照的に丹念に時間をかけて描写を重ねてきたのが本編にあたります。そうであるがゆえに、上記のような高校3年生になっての内的・外的変化というものが強く認識されるようになってしまったのでしょう。合間合間に挿入される主人公たちの父親世代の話、そしてライオンさん、「夢」を追いかけることの複雑さと、様々な思いを内包した複数性の中で話は大きく広がっています。読んでいて、果たしてこれはしっかりと受け止められるのだろうか、という疑問が湧いてくるほどに。

 という感じで、次巻も読んでいきます。楽しみにしながら。