新海誠監督『秒速5センチメートル』

秒速5センチメートル 通常版

以下ネタばれします。

詳細な背景描写とともに繊細な人物像を描く新海作品。第1話がネットで配信され、その後、劇場公開されましたが、多忙でそんなことを忘れていたら、いつの間にかにDVDが発売されていたので、ようやく目にすることができました。

時間ははっきりとした悪意をもって僕の上を流れていった。僕はきつく歯を食いしばり、ただ泣かないように耐えているしかなかった。
第1話より

主人公の住む豪徳寺。新宿、南新宿、参宮橋。狂おしいほどよく知っている街並み。よく知っている遮断機。よく歩いたあの道。そのほかにも第1話で描かれる野木、第2話の種子島。際限ないぐらい詳細に描かれ続ける背景に、僕はただ圧倒され続けた。

出すあてのないメールを打つ癖がついたのはいつからだろう。
第2話より。

それとともにまるで苦痛を引き伸ばしにするかのように、救われない主人公に、2話以降は思い人の影を消すことのできない主人公に、ただなすすべなく画面の前に座っていることしか僕はできなかった。

この数年間とにかく前に進みたくて、届かないものに手を触れたくて、それが具体的に何を指すのかも、ほとんど脅迫的とも言えるようなその思いがどこから湧いてくるのかもわからずに、僕はただ働き続け、気付けば日々弾力を失っていく心がひたすらつらかった。そしてある朝、かつてあれほどまでに真剣で切実であった思いがきれいに失われていることに僕は気付き、もう限界だと知ったとき、会社を辞めた。
第3話より。

そして物語が終わっても救われることのなかった主人公が、描かれない物語のその後では少しだけでも幸せであってほしいと泣きながら願うしかなかった。願うぐらいはいいよね。

落ち着いたら歩こう。今でも車窓からは見える。